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札幌地方裁判所 平成7年(ワ)2170号 判決 1996年3月26日

《住所省略》

原告

片山一歩

札幌市白石区本通19丁目南6番8号

被告

株式会社つうけん

右代表者代表取締役

久保田俊昭

右訴訟代理人弁護士

山根喬

市川隆之

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告の平成7年6月29日開催の第49回定時株主総会における,別紙決議目録記載の決議をいずれも取消す。

第二事案

一  事案の要旨

本件は,被告の株主である原告が,平成7年6月29日開催された被告の第49回定時株主総会(以下「本件総会」という。)には招集あるいは決議方法に瑕疵があるとして,同総会でなされた各決議の取消を求めるものである。

二  本件の経過

1  原告

原告は,被告の株式6000株を所有する株主である。

2  被告の株主総会の開催と議決

被告は,平成7年6月29日,本件総会を開催し,別紙決議目録記載のとおりの決議(以下「第1決議」あるいは「本件各決議」という。)をした。

三  争点

争点は,本件総会における決議に取消事由となるべき瑕疵があったか否かである。

四  証拠関係

記録中の書証目録,証人等目録記載のとおりであるからこれを引用する。

第三取消事由についての原告の主張とこれに対する判断

一  提案理由の削除

1  原告の主張

原告は,本件総会に先立ち,他の株主と共同して,被告に対し,商法232条の2に基づき利益処分案について提案理由を付けて議案の提案をする旨請求したところ,被告は,招集通知添付の議決権行使の参考書類(以下「本件参考書類」という。)において,第3号議案として記載したが,その際,提案理由のうち別表を削除した。

2  判断

(一) 右原告の主張のとおり,被告が別表を削除して本件参考書類を作成したことは当事者間に争いがない。

(二) 大会社の株主総会の招集通知に添付すべき参考書類等に関する規則(以下「参考書類規則」という。)4条1項本文及び同項1号によれば,株主から400字以内の提案理由を記載した書面が株主総会の会日の6週間前に提出されているときは,当該理由又はその要旨を株主総会の招集通知に添付する参考書類に記載することとされており,右規定の趣旨からすれば,提出された提案理由が400字を超過しているときは,できる限り提案理由の趣旨を損なわないようにして400字内に提案理由を要約することは当然許容されると解される。

(三) 乙第1号証によれば,原告提案の第3号議案(乙第1号証記載の議題1)の提案理由は本文だけで400字に近く,これに別表を加えると400字をはるかに超過することを認めることができる。そして,同号証によれば,右提案理由をできる限り提案理由の趣旨を損なわないようにして,400字以内に要約するために,別表を削除したことは相当と認めることができる。

そうすると,右提案理由を400字以内に要約するために,本文のみを参考書類に記載して別表を削除したことを違法ということはできない。

二  議案の提案者の記載方法の違法

1  原告の主張

被告は,本件参考書類において,第1,2号議案(本件第1,2決議の議案)の提案者について,会社提案という概念がないのに会社提案と記載した。

2  判断

取締役あるいは取締役会提案の議案について会社提案と記載することが法律的に正確な用語の使用といえるかは疑問のあるところであるが(株主総会という会社の機関において会社の提案という概念は成立しない),取締役会で株主総会の議案として提案することを決定されたものを会社提案と表現することが,株主総会における決議の取消事由になるような瑕疵とまでいうことはできない。

三  賛否の記載のない議決権行使書面の取扱の不平等

1  原告の主張

賛否の記載のない議決権行使書面についてはすべての議案について平等の取扱をしなければならないところ,被告は,賛否の記載のない議決権行使書面について,取締役会提案の議案については賛成,原告提案の議案については反対として取り扱った。

2  判断

参考書類規則7条によれば,議決権行使書面には,賛否の記載のない場合,各議案について,賛成,反対,棄権のいずれかの意思表示があったものとして取り扱う旨記載することができることとされており,全議案について同一の取扱をすべきことまでは要求されているわけではないから,本件において議案ごとに異なる取扱をしたからといって違法とまでいうことはできない。

四  議決権行使書面の到着期限の取扱の違法

1  原告の主張

被告は,議決権行使書面の到着期限を平成7年6月28日と定めておきながら,同日正午で書面の受付を終了した。その結果,一部株主において権利行使ができなかった。

2  判断

(一) 右原告主張の,被告が平成7年6月28日正午で議決権行使書面の受付を終了したとの事実を認めるに足りる証拠はない。

(二) ところで,原告は,巽公雄の議決権行使書面のはがきに,速達郵便によって平成7年6月28日の12時から18時の間に札幌市白石郵便局に到着しているとの消印が押されており,この郵便は速達であるから直ちに配達された,そうでないとしても郵便局は近くなのであるから受取りに行くなどの努力をすべきであったと主張する。

しかし,乙第13号証の9の1,2及び検証の結果によれば,右主張のとおり消印が押されていることを認めることができるものの,この事実から直ちにこれが同日中に被告に配達された事実を推認することはできない。

また,議決権行使書面は株主総会の前日までに被告会社に提出しなければならないところ(株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律21条の3第3項),被告において郵便局まで受取に行く義務があるということもできない。

さらに,検証の結果によれば,原告が,本件総会後に,本件総会に提出された議決権行使書面を被告会社の立会人とともにビデオカメラで撮影した際に,右巽公雄の議決権行使書面の右消印を見ながら,原告が「6月28日の12時までなので,12時から18時までだと間に合わないですね」と述べたのに対し,立会人が「ええ」と答えたことを認めることができるが,右「6月28日12時」の「12時」が,正午を指すのか,午後12時を指すのかを明確には判断しがたく,右検証結果から,原告主張の事実を認めることはできない。

結局,議決権行使書面の到着期限の取り扱いに違法があったということはできない。

五  議決権行使書面の押印についての取扱の違法

1  原告の主張

被告は,議決権行使書面の押印について,届出印と同一かどうかの確認をしていない。

2  判断

(一) 本件弁論の全趣旨によれば,被告は,議決権行使書面の押印について,届出印と同一かどうかの確認をすることなく,押印があれば有効として取り扱ったことを認めることができる。

(二) 参考書類規則8条によれば,議決権行使書面には株主が押印する欄を設けなければならない旨定められているものの,押印する印が届出印と同一であることまでは要求されていないから,同一とするかどうかは各会社の裁量に任せられていると解される。

よって,議決権行使書面の押印について,届出印と同一であることを確認しなかった被告の取扱を違法ということはできず,この点についての原告の主張は理由がない。

六  議決権行使株式数算定の違法

1  原告の主張

被告は,本件総会において権利行使できる株主を平成7年3月31日の株主名簿及び実質株主名簿に記載された株主としたが,その株式数を同日最終の株主名簿及び実質株主名簿に記載されている株式数と,株式の分割(平成7年5月19日効力発生)により増加した株式数の合計数とした。このことは,結果的に単位未満株式数を増加させて小口株主の投票における影響力を低下させようという意図を含むものであり,また,配当金を受ける権利を有しない新株式に利益処分案の採決に参加させることもおかしい。

2  判断

(一) 本件弁論の全趣旨によれば,被告は,本件総会において権利行使できる株主について原告主張のとおり扱っていることを認めることができる。

(二) 右の取扱の当否については議論のあるところではあり,原告主張の問題点のあることも理解できないわけではないが,基準日は,株式譲渡によって変遷する株主を確定する手段であると解されるところ,基準日以降に株式分割がなされて株式数が増加する場合には,株主が変遷するものではないのであるから,基準日における株主によってのみ株主総会が構成される以上,株式分割による新株分についても議決権を行使しうると扱ったことを違法ということはできない。

七  株券なき株式の議決権行使の取扱の違法

1  原告の主張

被告は,本件総会において,株券を有しない株式についても議決権の行使を認めた。株主とは,自己又は他人名義をもって記名式株券を有するものをいうのであるから,被告の取り扱いは違法である。

2  判断

本件弁論の全趣旨によれば,被告は,本件総会において,株主名簿の株式の数及び実質株主名簿(株券等の保管及び振替に関する法律32条)の株式の数を合算(いわゆる「名寄せ」)した合計株式数のうち,単位株の部分について議決権を与えたことが認められる。

同法33条2項によれば,会社は株主名簿に株主と記載された者と実質株主名簿に実質株主として記載された者が同一の者と認められるときは,右両者の株式の数を合算しなければならないとされており,かつ,合算する株式を単位株に限定していないのであるから,本件における被告の取り扱いを違法ということはできない。

八  議事運営の瑕疵

1  株主の発言の拒否

(一) 原告の主張

議長は,本件総会において,書面質問に対する一括回答が終了するまでの間,株主の発言を一切認めなかった。

(二) 判断

議長は,総会の秩序を維持し議事を整理する権限を有する(商法237条ノ4第2項)のであるから,株主総会の開会から閉会に至るまでの間,総会における議事の進行,採決,議事の整理,秩序維持等に関する一切の権限を有すると解されるところ,全く発言を認めないなど著しく不公正な方法であれば格別,株主の発言をどの段階で認めるかは原則として議長の右権限の範囲に含まれると解されるから,仮に,右原告主張の措置を議長がとったとしても,直ちに違法ということはできない。

2  議長の説明拒否

(一) 原告の主張

原告は,本件総会において,議長に対し,出席者の内訳を報告するよう請求したが,議長は,その回答を拒否した。

(二) 判断

株主数,議決権を有する株式数の報告は,株主総会が議決に必要な定足数を満たしているかどうかの判断のために必要と解されるところ,甲第4号証及び本件弁論の全趣旨によれば,本件総会においては,開会時に,基準日現在の発行済株式数,株式分割により増加した株式数,議決権行使書面を提出した株主及び出席した株主が有する議決権を有する株式数の報告がなされていることを認めることができ,議長がこれを超えて出席者の内訳(本人出席,委任状出席,議決権行使書面提出の人数とその議決権を有する株数)を報告することまでしなかったとしても違法ということはできない。

3  取締役の説明拒否

(一) 原告の主張

原告は,本件総会において,貸借対照表における現金預金41億円の預金先,預金種類及び預金金額について質問をしたが,取締役は説明を拒否した。

(二) 判断

(1) 甲第4号証によれば,原告から右(一)の質問がなされ,取締役が銀行の固有名詞を出さなくても道内の4行とか都市銀行とかあるいは信託銀行とか我々が安全と思っているところに出しておりますので株主の皆さんの不安はないと確信しております,ある固有名詞を公表すると,今後の商売の関係で不都合をきたすこともあるので控えたいという趣旨の回答したことを認めることができる。

(2) 確かに,質問の意図あるいは預金先についての報告を求める客観的必要が認められる特別の事情があるような場合には回答しなければならないこともあると思われるが,本件においては,原告がどのような必要性があって質問をしたのか個別具体的な事情は明らかでなく,右の質問に対し,取締役が右(1)で認定したとおりの回答をしたからといって,直ちに,取締役が説明を拒否したとまでいうことはできない。

4  監査役の説明拒否

(一) 原告の主張

原告は,本件総会において,監査役に対し,取締役から「NTTの間接経費見直し計画」の報告を受けた時期について質問をしたが,監査役は,説明を拒否した。

(二) 判断

(1) 甲第4号証によれば,右の趣旨の質問について,監査役が,48期中に聞いているが,時期は忘れたと回答したことを認めることができる。

(2) 株主総会において,突然の質問がなされ,詳細な報告を直ちにできなかったとしてもやむを得ない場合があり,本件においても,監査役が合理的な理由もなく回答を拒否したものではないから,株主総会決議の違法をもたらすとはいえない。

5  表決の方式等についての瑕疵

(一) 原告の主張

(1) 表決方式の選択方法の違法

原告は,本件総会における議案の表決方法について,記名投票方法によるべきことを提案したが,議長は,議場に図ることなく発声による表決方法を選択した。

(2) 異なる表決の方式を採用した違法

本件総会において,第1,2号議案(本件第1,2議案)については発声により,第3,4号議案(本件第3,4議案)については挙手により表決したが,議案についてはすべてその表決方法を同一にすべきである。少なくとも対立する内容の議案である第1号議案と第3号議案の表決方法は同一にすべきであった。

(3) 挙手しなかった会場出席株主の取扱の違法

議長は,第3,4号議案(本件第3,4議案)について,表決の際に,挙手しない株主の取扱について説明することなく,挙手により表決をしたが,挙手しなかった出席株主が反対なのか棄権なのか確認しなかった。従って,出席株主総数の過半数に達していたかどうか明確とはいえない。

(二) 判断

(1) 表決方式の選択方法の違法について

株主総会における表決の方式についての法律上の規定はないから,挙手,起立,投票,その他いずれの方法によっても出席者の意思を算定しうる方法であれば差し支えないと解される。

発声による表決はその正確性について疑問なしとはしないが,出席者の意思を算定しうる場合であればこれを採用することも許されると解される。したがって,議長が発声による表決方法を採用したことのみをもって違法ということはできない。

(2) 異なる表決の方式を採用した違法について

すべての議案について同一の表決方法をとるべき法律上の義務はないから,ことの当否は別として,議長が各議案によって異なる表決方法を採用したことをもって違法ということはできない。

(3) 挙手しなかった出席株主の取扱の違法について

決議は,商法あるいは定款に別段の定めがある場合を除いて,発行済株式の総数の過半数に当たる株式を有する株主が出席しその議決権の過半数で決することになっているから(商法239条),議案について賛成の株主に挙手を求める表決方法を採用した場合には積極的に挙手をした株主の数が問題になるのであり,挙手しなかった株主の意思を確認しなかったからといって違法ということはできない。

第四結論

右に述べたとおり,本件総会の手続には原告主張のような総会決議の取消事由に当たるような違法,瑕疵は存在しないから,その余の点につき判断するまでもなく理由がないことが明らかである。

よって,原告の本訴請求をいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石田敏明 裁判官 田代雅彦 裁判官 小出啓子)

<以下省略>

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